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がん情報ナビゲーターが必要とされている理由

がん患者・家族が直面する問題。根拠に基づいたがん医療情報が提供できる人材が求められます。

日本におけるがん医療環境と現状

日本におけるがん医療環境と現状

 直近の統計では、日本におけるがん罹患全国推計値は676,075人(2005年)、また死亡者数は344,105人(2009年)となっており、今後も増加が予測されている。

 一方、欧米、特に米国においては官民一体となった早期診断・早期治療の普及・啓発、臨床試験の普及・啓発・実施、それらから得られる標準的治療の普及により、死亡率に歯止めがかかり、乳がんなど特定のがん種においては、死亡率の低下を達成している。

 日本におけるこのような現状は、様々な要因に起因すると考えられるが、医療者向けのがん情報、国民・患者向けのがん情報を提供・共有するシステム構築の遅れが大きな要因の一つと考えられている。これらが近年本邦で問題となる科学的根拠に基づくがん医療(いわゆるガイドラインや標準的治療など)の普及を阻害し、がん医療の地域間格差を生じていると考えられる。結果的に、良質ながん情報にたどり着けない、実施されるべき治療にたどり着けないという「がん難民」を生み、医療消費者であるがん患者及び家族の満足度は低いものとなっている。

 事実、本邦において全国統一のがん登録制度はなく、日常臨床下においてどの施設で、特定のがん種に対し、どのような治療が実施され、どのような治療成績であるかを、共通の基準で比較検証する事は不可能であり、この点も科学的根拠に基づくがん医療(いわゆるガイドラインや標準的治療など)の普及を阻害する大きな要因の一つと言われている。

 このような問題は、医療者の間においても指摘されており、向井らの報告によると、国立がんセンター東病院を受診した「乳がん遠隔転移・遠隔再発例」の78症例(2003年2月からの2年間)の、「標準治療が的確に実施されたか」、「実施された治療法が妥当であるか」についての検討では、45%の症例が「標準よりかなり外れる治療」、「害をもたらす可能性のある治療」を受けていた。また、渡辺らによる山王メディカルプラザのセカンド・オピニオン外来を、2003年9月からの2年間に訪れた乳がん患者175名の評価においても、41%の患者が「標準的ではなく推奨できない」、「標準治療ではなく患者は不利益を被っている」と報告されている。

近年のがん医療変化。

近年のがん医療変化。

 以上のような状況を鑑み、国家レベルの取り組みとしては、厚生労働省は国立がんセンターを中心とし、各都道府県にがん診療連携拠点病院の設置を進める他、2006年10月には医療者向け、患者向けの「がん対策情報センター」を開設し、「がん対策推進」を図っている。また、2007年4月からは、これらの問題解決を更に加速させる役割を持つ「がん対策基本法」も施行され、同年6月には「がん対策推進基本計画」も閣議決定されるに至った。一方、民間レベルにおいても、2005年5月大阪にて開催された「第1回がん患者大集会」をきっかけの一つとして、各地のがん患者団体・がん患者支援団体の活動も活発化している。

 以上のような背景により成立した「がん対策基本法」の基本理念にもある「科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにすること」、「がん患者の置かれている状況に応じ、本人の意向を十分尊重してがんの治療方法等が選択されるようがん医療を提供する体制の整備がなされること」を広く実現するためには、医療提供側・医療者のみの変革だけでなく、同時に患者が医療消費者として、信頼性の高い情報にたどり着き、情報を理解し、患者が主体的に治療を選択できる環境の構築も必要となる。実際に、がん診療連携拠点病院の相談支援センターに求められる重要な役割の一つとして、最上位に「各がんの病態、標準的治療法等がん診療に係る一般的な医療情報の提供」の項目が掲げられている。

がん患者・家族・国民が置かれた環境。

がん患者・家族・国民が置かれた環境。

 しかしながら、医療消費者として、患者が主体的に情報を入手し、治療法を選択する事は、種々の要因により大変困難な状況にある。これは、いかなる製品・サービスの中においても、提供側・需給側の「情報の非対称性」)が大きい場合に顕著に現れると言われており、まさに医療(特にがん医療)はこれに該当すると思われる。このような環境下においては、市場経済を例に取れば、逆選択(正しい選択ができない)、モラルハザードのリスクも生じると言われている。

 米国を例に取れば、患者が良質ながん医療情報を得るために、種々のインフラが整備されている。国家レベルでは、米国がん研究所(National Cancer Institute)が提供するウェブサイトでは、医療者向け、患者向けのがん種毎の一般情報、病期毎の治療情報、その他有益な情報が提供されている。民間レベルにおいても、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)においては、腫瘍毎のdecision treeを用いたガイドライン等が提供されている)。更に、米国対がん協会(American Cancer Society)、Pan Can(Pancreatic Cancer Action Network)、Lance Armstrong Foundationなどの、がん患者団体、がん患者支援団体においても、独自のがん情報の提供を行っており、米国対がん協会においては、24時間体制の電話・メールによる相談窓口(Cancer Information Center)も開設している。

 加えて、前述した医療、特にがん医療においては、医療者側と患者間の「情報の非対称性」が大きい事、また個別性が高い事から、良質で信頼性の高い情報を提供するインフラの整備だけでなく、それらの情報を、医療消費者である患者に理解できる言葉・言語に翻訳する、すなわち通訳者の存在も重要と考えられている。腫瘍専門医、腫瘍専門看護師、腫瘍専門薬剤師などの専門職が多数活躍する米国においてさえ、患者・国民ががん医療情報について相談する窓口は、国家レベル・民間レベルにおいても用意されている。

 一方、日本においては、2006年10月に「がん対策情報センター」が開設され日々情報が追加・更新されているものの、これらの情報が広く、必要な患者・家族に届けられてはいない。また、がん関連学会編集による診療ガイドラインも、米国では全ての国民が最新のものに無償でアクセスできる環境であるのに対し、本邦においては有償での書籍販売(最新版)であり、一般書店での購入も困難であるなど、その普及は十分とは言えない。又、これまでも問題となり各関係団体の整備は進んできているが、未だ認定がん治療専門医、専門看護師、薬剤師他は、あまりにも少ない上、患者・国民がアクセスできる相談窓口も、国家レベル・民間レベルにおいても十分整備されているとは言い難い状況にある。

 また、急速なインターネットの普及により、がん患者・家族のアクセスが急増し、医療情報・がん医療情報の入手は容易になったものの、専門知識なく一般的な検索ワードを検索エンジンに用い調べる場合、その検索結果数は数十万から数百万という膨大なものであり、それらの情報についての重み付け、信頼性の評価はほぼ不可能に近いといって良い状況にある。

がん患者・家族が直面する問題

がん患者・家族が直面する問題

 ところで、がん患者・家族が「がん」と診断され直面する問題は、3つに大別される。一つは、自身の治療上の決定における医療情報、各種治療の自身への影響、すなわち効果・有害事象(副作用)など体への影響、「Physicalな問題」、2つ目は「がん」という診断に対する不安、治療の効果・有害事象(副作用)などに対する不安、生活・将来への不安などの「Mentalな問題」、3つ目として、高騰化する医療費に関わる経済的な問題の他、医療制度に関する問題、すなわち「Socialな問題」である。

 いずれも重要な問題であるが、「がん対策基本法」の理念である「科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにすること」、「がん患者の置かれている状況に応じ、本人の意向を十分尊重してがんの治療方法等が選択されるようがん医療を提供する体制の整備がなされること」を考慮すれば、患者・家族にとって最も重要な問題で解決される問題は、1のPhysicalな問題であると思われる。

がん対策推進の取り組み

がん対策推進の取り組み

 厚生労働省においては、がん診療連携拠点病院にて、これら種々の問題に対応する患者・国民向けの「相談支援センター」の設置を求め、各がん診療連携拠点病院で「相談支援センター」が機能するよう「相談支援センター相談員講習会」等が実施されるに至り、また、民間レベルにおいても当法人などが実施する養成プログラムを初め複数の試みも始まっているが、官民共にその質と量において、未だ十分とは言い難い状況にある。

 前述した「がん対策基本計画」には、「今後は、基本計画に基づき、国及び地方公共団体、また、がん患者を含めた国民、医療従事者、医療保険者、学会、患者団体を含めた関係団体及びマスメディア等(以下「関係者等」という。)が一体となってがん対策に取り組み、がん患者を含めた国民が、進行・再発といった様々ながんの病態に応じて、安心・納得できるがん医療を受けられるようにするなど、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会」の実現を目指すこととする。」と言及されている。すなわち、これまで行政、医療者主体で進められてきた「がん対策推進」に、がん患者を含めた国民他、様々な立場の団体・関係者が関与するよう求められている。

 今後、がん患者・家族のニーズに応じた「がん医療対策」を進める上においても、また実際に、がん患者・家族が求め、提供されるべき医療情報・サービスを提供するためにも、医療者のみならず、「がん対策推進」に関る者が、「各がんの病態、標準的治療法等がん診療に係る一般的な医療情報」等についての知識を有する事は必要最低限の要件となると思われる。

 このような背景より、本講座では、「がん医療対策推進」に関る者(関わろうとする者)を対象に、科学的根拠に基づいた良質で、信頼性の高いがん医療情報を理解し、またその時々の最新のがん医療情報にアクセスし、かつそれらの医療情報を患者の言葉に換える事のできる「認定がん情報ナビゲーター」の人材養成講座を立ち上げました。

 「がん情報ナビゲーター養成講座」は、医療機関などで患者さま・ご家族の相談に対応される方々、また将来このような仕事を通じてがん医療に貢献したい方々を対象とした、EBM(evidence-based medicine,根拠に基づく医療)に基づく医療情報収集のための教育プログラムです。NPO法人と株式会社の協力スキームによる日本のがん医療の向上支援を目的として、企画・講座製作を特定非営利法人 キャンサーネットジャパンが行い、講座運営・企画協力をニック教育講座(株式会社 日本医療事務センター)が行います。